はねよら様より3

All Fiction の はねよらさんより、素敵なSSを頂きました!
ある日「ホアクレ書いたら由多さんの応援になりますか」ってたずねてくださったので
「なります!!!!!」 って全力肯定して書いていただきましたvV

『アイスを食べるホアサラ』
というテーマでおひとつお願いしました!だってはねよらさんが書くホアサラ好きなんだもん!!^^^^(無茶ぶり2回目

ホアクレ好きでホアサラ好きな方ぜひ読んでおくれ~~~!(大プッシュ

-----------------


太陽とかくれんぼ


ピピ、と電子的な音が聞こえて集中力がふつりと途切れた。

画面をタップしてアラームを切ってから、読んでいた本を閉じる。目頭をつまんで揉みほぐすと、凝り固まった瞳がじんわりと休まった。時計を見ると14時を過ぎている。今まで気にならなかったのに本を閉じた途端、窓越しの蝉の声がうるさく聞こえて眉間に皺が寄った。どうやらずいぶん集中してしまっていたらしい。
読書用にと置いておいた麦茶のグラスは結露してコースターを濡らし、入っていたはずの氷は跡形もなく溶けきっていた。暑い。夏が始まったばかりだというのに、家の中にいてもじんわり蒸されるような暑さを感じる。
テレビをつけてみるとテロップに「高温と熱中症注意!」と警報が出ていた。リポートをしているアナウンサーは滲む汗も拭わないまま「水分と塩分を摂りましょう」としきりに訴えてくる。真夏と比べれば温度は高い方ではないけれど、季節の変わり目に急に暑くなると、まだ高温への耐性が備わっていないためか不調を来きたしやすいと聞く。
サラさんは大丈夫だろうか。
今日は行事の日だが、やることがあるから海開きには参加しないと言っていた。
明日の朝一番に乳製品加工用メーカーが届くようで、「今日中に舎内を綺麗にしておかないと」と朝から張り切って身支度を調えていた。家を出る前に「頑張てね」とサラさんの頭を撫でてみたら、照れ混じりの嬉しそうな表情を見せたのがなんとも愛らしかった。
行事の日でも休まず仕事をするのは大変なことだけど、ある程度スケジュールの算段を立てた上でのことだろうしサラさんの仕事に口は出したくない。でも警報が出るほど一気に上がった気温の中、空調のない野ざらしの屋外で作業を続けているのは気になる。
理由をつけて顔を見に行ってみるかと立ち上がり、キッチンに移動した。
水分は手元、というかあの異次元並のリュックに入っているだろうし、差し入れるなら食べられる物の方がいい。とはいえあまり菓子の類たぐいを常備する方ではないし、何か作ってもいいが時間も惜しい。ついでに食べやすさも重視したい。となると何が良いか。考えを巡らせたところで、はたと思い立って冷凍庫を開けてみた。もうすぐ夏だからと氷菓子を買っていたのをすっかり忘れていた。冷凍庫のど真ん中に鎮座する未開封の箱をこじ開けて、棒状のアイスを二本取り出すとそのまま真っ直ぐ玄関に向かう。

ドアを開けた途端、耳障りな蝉の声がひっきりなしに聞こえ、じっとりとした暑さがまとわりついてきた。
いつも出勤する頃、明け方なんかは朝靄があるぼんやりした景色で、木々が生い茂る緑から青々とした香りを漂わせ、上がりすぎない気温が過ごしやすさすら感じるというのに。真逆だ。
「…暑」
湿度の高いべたっとした暑さにため息をついて空を見上げると、澄み切った深い青がどこまでも広がって、高く積み上がった真っ白な雲が浮いている。
目の前の景色はというと、季節の変わり目で荒れがちな畑は雑草もなく、いくつかの大岩を残して綺麗に整地されていた。エリア分けされた作物達が水を受けてきらきらと太陽に反射している様は壮観で、見ていて気持ちがいい。さすがサラさんね、と心の中で誰に自慢するわけでもなく褒めて、彼女の姿を探した。目を凝らすと、綺麗に並んで植えられた作物の間にちょこんと座り込んで何かしているようだった。
日陰から見る彼女はどうしてこうも眩しく感じるのだろうか、と問いをひとつ浮かべて、すぐに愚問だと答えを出した。長さのあるたっぷりとした金髪が陽に当たりきらめくのを見て、わたしの奥さん勝手に光らせないでほしいね、と太陽に舌打ちをする。日陰から出てみると、途端にじりじりと肌を焼いてくるのが余計に腹立たしかった。
「サラさん」
「ホアンさん…?」
歩み寄って声をかけると、地面にしゃがみ込んでいたサラさんが眩しそうにこちらを見上げる。頬が少し赤い。首筋からは少し汗が見えていて、疲労感から表情がぽやっとしている。
「仕事中ごめんある」
「……?」
わたしを見上げたまま、サラさんはぽけっとした表情で呟いた。ぼーっとしている。
今日は行事だからわたしの仕事は休みだと言わずもがな理解しているだろうし、今朝だってそういう話をした。にも関わらずどうしてここにいるのか?とでも言わんばかりの表情をされたのは明らかに頭が働いてないからだろう。
頭にぽんと手を置くと、てっぺんがじんわり熱を持っていた。
「暑いね」
「…あ、そっか、今日海開きでしたっけ…」
「はい、これ」
「…あいす?」
ゆらりと立ち上がったサラさんに棒アイスを手渡すと、暑さに澱んでいた瞳に光が灯った。このまま作業を続けるとまず間違いなく熱中症になるだろう。このタイミングで声をかけられたのは僥倖だ。
「いい仕事、いい休憩から。豆知識ね。一緒に食べるある」
にっこりといつも通りの笑顔を作って、彼女の手首を掴む。
肌に触れた感じ、汗ばんではいるものの過度に熱が籠もっているわけではなさそうだ。ひっそりと脈に当てた人差し指で拍数をとってみても、と、と、と一定のリズムで刻まれていて、熱中症特有の速さはない。しっかり休ませれば問題はないだろうとあれこれ考えながら、耕地を出て出荷箱の横を通り過ぎた。
サラさんはわたしに腕を引かれるまま素直についてくる。
太陽から隠すかのように玄関前に並ぶ果樹の下、山ぶどうの木の日陰へと連れ込んだ。
気温は変わらず高いままだが、のびのびと広がる枝がしっかり日を遮ってくれているし、風が吹くと少しの涼しさすら届けてくれる。木の横に座ってアイスの封を切ると、サラさんもわたしに倣ならって横にぺたりと座り込んだ。
家の中に連れ込んで休ませても良かったけれど、突然出てきて休憩だと言われるのは当事者的に不本意なことだと思う。こちらの勝手なタイミングで休憩を取らせるだけだから、仕事を長く中断させてしまうわけにはいかない。最低限日の当たらないところで十分に休憩を取って、無理なく仕事に集中してくれるのが一番安心できる。
しゃく、とアイスを囓ると、濃厚なミルクの甘さが口いっぱいに広がった。硬い層の中からとろりとした練乳が零れてくる。
暑いのはいただけないが、空は途方もなく綺麗だ。浜辺も快晴だろう。
今日の海開きは例年通りフリスビー大会を開催するとザクが言っていた。今年は参加者が十分確保できたと豪快に笑っていたのが記憶に新しい。わたしも誘われたが勿論秒で断った。
明日以降はいつもと違うフリスビーを売り出してみてもいい。大会でフリスビーに興味が湧いた人もいるだろうし、ペットの売れ行きをバァンさんに聞いて商品を取り寄せ、場合によってはカタログを常備してもいい。愛玩動物は人の心を豊かにするし、家族として迎え入れるためか懐を緩くしてくれる客が多い。といってもこの町での客数なんてたかが知れているけれど。
頭にきりりと冷たさを走らせながらしゃくしゃく、とアイスを食べた。凍った部分を溶かすようにして飲み込むと、暑さにぼやけた思考が叩き起こされるようでいい。

季節の商品の売り出しは在庫を整理すればいいとして、明日何かやるべきことがあったはずだが、どうにも思い出せない。
暑さで頭が回っていないのはわたしも同じかと自嘲めいたため息をこっそり吐いて、溶けかけた最後のひとかけらを口に含み棒からするりと抜き取った。甘い。
そういえば家の中にいたとはいえ、さほど水分を摂っていなかったかもしれない。涼しさを感じていても汗は蒸発するし熱中症になり得る。人をどうこう心配するよりわたし自身も気をつけなければ。サラさんに何があっても対応できる状態でいたいし、仕事に影響するのも良くない。
ふと右隣を見ると、私の横に座り込んだサラさんはぽやっとした顔のままアイスを頬張っていた。薄い唇が棒状のそれにかぶりついて、じゅ、と小さく音を立てている。冷たさが頭に響くのか時折目をきゅむっと瞑っていた。
溶けかけて輪郭が潤むアイスの側面に、とろりと練乳が流れていく。甘い液体が髪の毛につかないよう、サラさんは顔周りに垂れる柔らかな金髪を指先で掬って耳に掛けた。その仕草に何も思わないわけもなく、小さな口で棒アイスを懸命に舐めているのがどうにも、こう、心の真ん中がむずむずと刺激される。全力で理性を働かせてそれらを脳の片隅に追いやって、わたしの視線に気付いたサラさんの手元、アイスが溶け始めたのを指でちょんちょんと合図して教えてあげた。
ややあってから指示の意図するところに気付いたサラさんは、垂れた白い練乳を首を傾げてぺろりと舐める。同時にアイスも傾けてしまい、そこから更に溶けたアイスが練乳とともにとろりとあふれ出した。
濁った白い色のそれとサラさんの舌の色対比に頭がくらりとする。先ほど全力で追いやった煩悩が何気ない顔で戻ってきたので何とか別のことを考えようとしてみても、どうにも目が離せない。顔がだんだん熱くなってくる。なるほど、わたしも暑さにやられてる。

こくり、と喉が鳴った。
不思議と飢えを感じている。渇いた喉は唾液を飲み込んでも何も潤さなかった。

誰もいない牧場で、ふたりだけ。
サラさんと並んで日陰に座り込み、何を話すわけでもなくアイスを食べて、整えられた畑を見渡す。滅多にないこんな日の出来事もいつかはきっと忘れてしまうだろうけど、今この瞬間、ここにいるのは燦々と照り続ける太陽と日陰にいるわたし達だけだ。行事の日にわざわざサラさんを訪ねてくる人もいないだろうし、もし誰か来たとしてもどうせ気配で分かる。

誰も見てないと思うとつい悪戯したくなるのが人間の不思議なところだと思う。
とめどなく溶けつづけるアイスを一生懸命舐めてみるものの、止められるわけもないそれにおろおろと慌てる隣の奥さんが可愛くて、でも可愛いと思えば思うほど不自然に腹が減る。頬が赤くて汗をかいているのも、暑さで瞳がとろんとしているのも、懸命に舐めるわたしより少し短い舌も、視界の全てが夜を思い出させた。
暑さで頭が沸いたとか美味しそうだったとか、そういうようなことを適当に並べて言い訳すれば何とでもなるなと自分を納得させて、細いアイスの棒を握るサラさんの指先を自分の手で包んで、半ば無理矢理引き寄せた。
溶けかけたアイスにそっと歯を立てると、溶けかけて柔らかな白い表面に犬歯が沈んだ。がぷりとそれを噛み切って口に含み、棒から抜き取る。ごちそうさま、と唇についた甘い液体を舐めとって、余裕をもった笑みでサラさんの顔を覗き込んだ。
「はやくしないと溶けちゃうね?」
「へあ」
ぽかんと空いた口のまま微動だにしないサラさんに声をかけると、絞り出したような声が聞こえた後、頬がぼっと真っ赤に染まる。
溶けたアイスが一滴、わたしとサラさんの間にぽたりと落ちた。
何をされたか分からない、といった反応をされたら本格的に家の中に連れ込んで休ませてしまおうかと思ったが、その心配は杞憂だった。こんなにすぐ恥ずかしそうな表情をくれるなら、ぽやぽやしていた頭もしゃきっとしただろう。
ぐぬ、と悔しそうに歪む顔が可愛くて、まるっとした額に顔を寄せた。汗で束になった前髪を指で分けて、額のど真ん中にちゅう、とキスをする。
サラさんの表情はいつだって雄弁だ。恥ずかしいけど嬉しい、でもやっぱりちょっと悔しい、と複雑そうな照れ顔で、それでもわたしを健気に見つめ返してくる。
「可愛」
ぽんぽん、と頭を撫でながら呟いた声は、思いのほか掠れていた。

さて揶揄うのもこれくらいにしてそろそろ水でも持って来るか、と立ち上がろうとしたら、くい、と裾を引かれる。
「…?」
どうかしたのかと視線を落とすが、サラさんはぷいっとそっぽを向いて目を合わせてくれない。どうやらまだここにいろということらしい。仕方ないので再び腰を落として座り込む。サラさんは何も言わず、たどたどしくアイスを食べながら顔を真っ赤にしていた。暑さからくる紅潮でないのは一目瞭然で、何かと葛藤をしていますと言わんばかりの顔が全てを物語っている。
黙ったまま裾を掴んで困らせてやろうという魂胆なんだと思う。全然困らないが。
こういう時のサラさんは、何かしら仕返しがしたいと頑張るものの、その更に仕返しが来る可能性を一切考えてないのがこれまた面白い。

裾を掴んだ一回り小さな手に自分のそれを重ね、そっと握った。
この景色、そしてこの手に計り知れないほどの幸福を貰っている。サラさん本人は何をそんなと言うかもしれないけれど、かけがえのない、手放しがたいものだった。

これまではおよそ他者とまともな関係を作ってこなかった、という自覚がある。
何の因果か、いっそ愚かしいほどお人好しの父を持ったが故に、したいことを考えるより以前にするべきことが山ほどあった。そのとき両手に持っているものをなんとか壊さないようにと現状維持に奔走するばかりで、でもそんな幼さや器量の狭さを周りに悟られることが一番嫌だった。そういった環境で生きてきたからか、自分から何かを求め欲するなど、違う世界の人間がすることだと思っていた。
治安がいいとは言えない地で弟たちの世話をしながら、誰も請け負わないような汚れ仕事だってした。そのおかげで人の機微には聡くなれたし、怪しいだのうさんくさいだの言われることはあれど、稼ぐための手段を身につけて形にして、ここまでこうして生きてこられたので人生捨てたもんじゃないと思う。
ただ貞操観念だけは、彼女と出会うまではやや破綻気味だったというか、育ちの悪さのまま改善されなかった。異性から部屋に招かれると、労力が割に合うかを脳内で見積もってしまう癖がついてしまっていたのがいい例だ。それが災いして、サラさんに"招かれた"と間違えそうになったこともあったか。彼女としては花瓶に活けた花を見せたかっただけなのだが、もし一歩間違えていたら上客を失ってしまっていたかもしれない。
今となってはそんなこともあったとこれまでの全てを思い出話にできる。そのサラさんがわたしの家族になってくれたことも、昔のわたしが驚くだろうなと思うほど、今ではすっかり骨抜きにされていることも、どれも彼女にもらった幸福だ。
過去の自分を全て知ってもらおうとは思わないしそんな必要もないが、摩訶不思議なことに、サラさんは既に昔のわたしに会ってしまっている。
幼い頃のわたしは研いでない上に柄もないような剥き身の刃物同然、というと聞こえはいいが、ギラついたただのクソガキだった。だというのに彼女はそんなわたしを蔑ろにせずひとりの人間として接してくれているらしい。それはそれで過去の自分が変に懐いてしまいそうで複雑な想いもあった。自分のことだから嫌というほど分かる。慣れないことが山のように聳そびえていても、決して物怖じせず、腕まくりをしながらひとつひとつ取り組んでいく彼女の姿に、最初こそ戸惑えど惹かれないわけがない。
サラさんは何に対しても全力で、不器用なようで器用だし、息の抜き方については器用なようで不器用なところもある。だからこそ等身大で愛おしい。

愛おしいが故に、今日くらいは力を抜いて欲しくて、重ねた手をひと撫でした。

裾を掴んでいた手を開いて指を滑り込ませる。指を絡め取って握ると、滅多にしない手のつなぎ方に隣のサラさんは肩を揺らしぷしゅう、と湯気が出そうなほど顔を赤らめた。
昼間だし外だからだろうかとちらりと横を盗み見て、すぐに目を逸らす。ここでこれ以上揶揄ってしまうと怒らせてしまいそうだ。

ざあ、と吹きすさぶ風が作物の間を縫って、牧場を囲む木々たちを揺らした。わたしとクレアさんを太陽から隠してくれる山ぶどうの樹も、そよめいて葉を踊らせる。
柄にもなく過去に想いを馳せてしまうのは、心に余裕があるからだろうか。それとも夏のせいだろうか。
正直、夏はさほど好きじゃない。うだるような暑さがまとわりついてくるのはイラッとくるし、暑さで客足が遠のいてしまうのもいただけない。消耗品の温度管理は他の季節より気を配らなくてはならず、客のニーズに合わせるという意味でも、変化が多く商売が上手く進まない時期だ。

ようやくアイスを食べ終わってなぜかほっとしているサラさんを見て微笑むと、いつもの笑顔を返してくれた。
唇の横についたアイスの名残りを拭ってぺろりと舐めると、その顔がまたみるみるうちに赤く染まっていく。

こんな夏の始まりなら、悪くないと思った。
もとい、サラさんとならどんな時期だって幸せに過ごせてしまうだろうと、何の根拠もない希望的観測を抱いてしまうくらいに可愛くて仕方なく思っている、というのは誰にも言わずに心の中に隠しておく。


-----------------


ホアサラ(ホアクレ)という名のオアシスが見える。。。ありがと。。。
はねよらさんがいつだったかブログで推しにアイス食べさせると元気になれるっていってて、
由多もホアサラで食べる絵とか描きたかったんだけどなかなか時間がとれないなって
だから代わりにお願いしますっていいました。すごいの完成しちゃっておったまげちゃったよ…元気でまくり
元気でたからアイス食べる絵もきっとかくよそしたら由多さん噓つきって指さして笑ってね(笑)

小説はとくに読み手によって感じ方が変わるのでここで感想を多くは語れないのですが、、
はねよらさんの読み込み力というんでしょうか、ホアサラのこの上なき良き理解者?表現が思いつかん
キャラの行動とか思考とか由多の思ってることそのままでほんとすごいと思いました謝謝!!

はねよらさん書いていただきありがとうございました!大切にします!ぎゅ!!


ーーーーーーーーーー




2023/06/22 up
inserted by FC2 system