されどたけのこ
1年目はるの月、なつも近づくある日のマザーズヒルのできごと
しかし由多には文才はないので文章ヘンなとこあるかもですが
それでも読んでくれたならきっと展望台から見える景色のように広大な心の持ち主に違いない
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マザーズヒルは豊かな山だ。
花や薬草、それに今が旬のたけのこ。
毎日のように採取できる自然の恵みは、今日もこうして、まだ少ない私の収入を補ってくれている。
はじめて見かけたときは採っていいものか悩んだけれど、ミネラルタウンで暮らす者にとっては当たり前のことらしい。
湖のほうでも採れたよ、とか、花なら吊り橋を越えた先がたくさん採れるよ、とか、なんなら情報提供までしてくれたくらいだ。
今日も私は教えられたとおりの場所へと足を運ぶ。
湖のはずれにある竹林に行くといい、そう教えてくれたのはあの気難しいサイバラさんだった。
確かにたくさんの…少々育ちすぎたたけのこがあちらこちらに生えている。
大きめのたけのこを掘り返すのに手こずっていると、竹林の奥からガサガサと何かが動くような物音がした。
「!」
自然豊かであるならば、もちろん野生動物だっている。
春の陽気で活発になったクマだったらどうしようか、不安がよぎりそろりと音のした方を見ると、そうではないとすぐにわかった。
あの黄色い羽織は、遠くからでもとても目立つ。
「こんにちは、ホアンさん!」
叫びながら手を振ると、ホアンさんは器用に草木をすいすい分けながらこちらへやってきた。
「你好サラさん。こんなところで珍しいね」
歩き慣れているのだろう、すこしも息があがることなく、いつものにこにことした愛想のいい顔をこちらに向けている。
「サイバラさんにこの場所を教えてもらって、たけのこを掘っていたんです。さっきはクマかと思っちゃいましたよ。ホアンさんで安心しました」
状況説明もふまえてそう言ってみたら、
「安心?そんなこと言う人も珍しいね」
ホアンさんは意外、といった風に首をかしげた。
何か変なこといったかな?と引っかかりながらも私は話を続けた。
「ホアンさんはどうしてここに?」
「隣町へ行って帰ってきたところね」
「隣町?こんな山の中を抜けてきたんですか」
隣町は、確かに隣でも、結構な距離があるはずだ。
「そうね」
「船の便あるじゃないですか?」
「確かにあるね。でもこっちのほうが近道ある」
早く到着するために、整備もされていない山の中を通っていくなんて。
「そっかぁ…すごいなー」
私は自然とそう言葉を洩らしていた。
「そうね?」
「私だったら、教えられた、楽な道を選んじゃいそう」
これで本当に良いかなんて考えもせずに、教えられたとおりに、勧められたとおりに。
祖父の牧場を継ぐのだって。
…今までの生き方と同じだ。
「楽な道はダメね?」
「え?」
突然問われたことに驚きホアンさんを見ると、にこやかな表情は変えずに、ただ私を見つめて返事を待っているようだった。
「えっと」
あわてて考えてみたものの、答えは何も浮かばない。
ごめんなさい、わかりません。ーそう答えようとしたところでホアンさんが口を開いた。
「わたしにとっては山を通るほうが楽だただけある」
ホアンさんがいつもより目を細めて、にこりと笑う。
ただそれだけなのに、なんだか落ち着かないのはどうしてだろうか。
「だからね、サラさん」
「楽したいのなら、えぐくて大した売り物にならないそのたけのこは、やめておくことね」
ホアンさんが町の方へと山を下っていくのを見届けてから、私もたけのこ掘りを終わりにして温泉へ向かう。
やめておいたほうがいい、
そう言われて言われたとおりにしたといえば、いつものとおり。
でも今日はなんだか、違うことをやってのけた、そんな気分だった。
土汚れを流して温泉でひと息つきながら、採れたたけのこの数を思い出す。
結局売り物として申し分ない柔らかそうなたけのこは、最初に採った3つだけだった。
ひとつはサイバラさんにあげよう。好きだから教えてくれたのだろうから。
もうひとつは今日の晩ごはんにしよう。たけのこごはんなんか美味しそうだな。
…やっぱりふたつ使って多めに炊こう。出荷分はなくなっちゃうけど、旬も終わりみたいだし。
そろそろのぼせそうになって、お風呂上りにぼんやりとつぶやいたのは。
…ホアンさん、たけのこごはん食べるかなぁ?
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ひと目見たときに感じた シンプルな 『すき』 が 気づかないほど ゆっくり
2021/12/08 up