季節はめぐる
行商人さんと常連さん~あきの月2日の話~ から思いつき^^
結婚後、ふたたび巡ってきたあきの月の、ザクとのやりとり。
由多は文才はないので文章ヘンかもですが、それでも読んでくれる方がいたら
きっと実り溢れるあきの月のように心も豊かな人に違いない^^
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ふと思い出したように、ザクはドアの方を見つめながら言った。
「あれ?そういやサラ、最近こっち来ないな」
何を今さら、と思いながらわたしは疑問に答える。
「サラさんなら、今月は来ないよ。来なくていい言ったある」
「…まさかもう倦怠期か?」
不安そうなザクの顔がなんだかヘンテコでふっと吹いてしまった。
もちろんそんなわけはない。
「秋はサラさんの稼ぎ時ね、そっちを頑張るよう言ったまでね」
秋はじつに忙しい。畑や果樹には作物がどんどん実るし、動物たちや家屋の世話に整備に冬支度、おまけに町の行事に駆り出され…
共に暮らすようになって彼女の仕事量を目の当たりにして、本当によく働く人だと感心した。
家族として、すこしでも負担のかかるものは減らしてやらなくては。
真っ先に思い浮かんだのが海の家までの距離と逢瀬の時間だった。
今でこそわたしも慣れたものだが、歩いて通うにもついでに寄っていくにも結構な距離がある。
「お前は自宅で会うからいいだろうけど、おれはさみしいじゃないか!」
いきさつを知って、ザクが非難めいた声をあげたが、考慮することはない。
なぜなら気の利く奥さんは、ザクへの土産をかかさず毎日、わたしに持たせているのだから。
「もらうものもらっておいて図々しいね。顔見たいならザクがウチに来たらいいね」
「え、いいのか?」
提案を聞いたザクが嬉しそうな様子を確認して、わたしは内心よしよしと頷いた。
これでサラさんが『ザクさん元気かな』と時折そわそわするのも、解消されることだろう。
「ピークが過ぎた今週末ならいいよ。サラさんが喜ぶお土産忘れずに持ってくることね」
「おう!…ところで、ホアンはさっきから何してるんだ?葉っぱなんてくるくるさせて」
「通勤中にくっついてきたある。サラさんみたいだから愛でてるところね」
イチョウのそろった葉脈を指で撫で、唇を当てて、照れる彼女の顔を思い浮べる。
葉っぱ1枚で興じることができる日がくるは思わなかった。人生何があるかわからないものだ。
「なんだそりゃ。サボってるってことか?」
ザクがあきれたような目でこちらをみる。伴侶があくせく働いているのに、という目だ。
サボりかどうかは、サラさんは理解っているからべつに構わない。
「お客、こないね~?」
わたしはわざとらしくにこりと、微笑んでみせた。
2022/04/16 up